太宰作品には、日本画や西洋画をはじめ、登場人物に至るまで多くの絵画や画家を駆使し、虚構の世界を形成している。日本画は江戸時代の北斎や光琳を用い、人間の心理の種々相や精神性を表現する(『富嶽百景』等)。それらは〈日本固有の伝統〉的なものとして〈旧時代〉を表象する。西洋絵画は〈印象派〉や、それ以降の〈近代絵画〉を中心とし、特異なベックリン(「十五年間」)やモジリアーニ(『人間失格」)に着目し、主人公の心象風景や思想の象徴として用いている。それらは〈革新的〉な意味合いで捉え、〈新時代〉を表象している。登場人物にも主人公や友人、肉親等に画家や画学生として受容しているが、太宰は日本画と西洋の〈近代絵画〉を使い分けることにより、〈人間革命〉、〈道徳革命〉を標榜しようとしたのではなかろうか。 |