江島其磧の晩年の時代物浮世草子『都鳥妻恋笛』は隅田川物に属し、後に読本仕立てで再版されるが、従来の評価は必ずしも芳しくない。本作と先行隅田川物の諸作を細かく比較すると、其磧が従来指摘のなかった上方歌舞伎の隅田川物を含め、実に多くの先行作から趣向を採りながら、演劇の運命悲劇的な深刻さ・凄惨さを薄める形に改変して利用していることが分かる。また、色事によって事態を展開させようとする、其磧なりの作意を窺うことができる。全体を繋ぐ道具立としての笛のモチーフは、隅田川伝承と笛の浅からぬ関係を踏まえ、取り込まれた可能性がある。精力的に材料を博捜取材しつつ、小道具や一貫した作意を用い複雑な筋立てを破綻無く構成する、其磧の手腕は評価して良い。そうした構成法は、怪異性の取り込みと共に、読本に通じる特徴と言える。 |