『日本書紀』の表現のなりたちを、「之」の分析を通して見極めるのが本稿のねらいである。それに、大きく二つの方向がある。一つが、表現それ自体にそくしてその実態を解明する方向、もう一つが、表現の違いを基に『日本書紀』三十巻のそのいくつかあるグループの区分を確定する方向である。本稿では、従来ほとんど顧みられることのなかった中国古典語に関する語法研究の成果を可能なかぎり広く援用し、右の二つの方向にそくして考察を加える。まずは「之」の用例分析を通して、いわゆる漢文という異質な言語をもって表現するなかに日本語にそくした表現をめざし、そこに「之」を利用していること、その利用の度合の高低と漢文の装いをめざす志向の高低とが反比例ないし逆相関すること、それゆえに装い志向が高い巻でもその表現はやはり日本語に基づくことを指摘し、そうした表現に関連してグループの区分確定を試みる。 |