本論は、石山寺兜跋毘沙門天像に関して、その図像的特徴および造像主導者を、作品自体の有する情報と石山寺自体の平安初期における密教化という二点から分析しようと試みたものである 。兜跋毘沙門天には西域色の濃厚な東寺像、中国化された延暦寺神将形式像、両者の折衷様という三類型が存在し、石山寺像はこの内延暦寺系に属する、とされてきた 。本論ではこの点に関し通説と異なり、東寺像特有のモティーフが数多く石山寺に認められることを指摘し、兜跋毘沙門天像の形式分類を再検討している。また石山寺の密教化に貢献した醍醐寺が石山寺像の造像を主導した可能性に関し、上醍醐知意輪堂と石山寺の尊像構成の比較を通じて分析した。 |