東アジア仏教全般における五台山文殊信仰は、大きな潮流を形成したとは言えない。そのためであろうか、五台山文殊信仰に関する研究もあまり進んでいない。しかし、中国の五台山という地域から始まった菩薩聖地信仰は、五世紀以降の中国の四大菩薩聖地信仰のもとでもあるし、韓国、日本の文殊信仰及び聖地巡礼の淵源でもある。しかも、五台山文殊信仰は華厳思想をもとにしているので、華厳思想の文化的な展開の様相を研究するうえでも無視できないと考える。さて、この五台山には、「文殊化現」「文殊瑞相」等の文殊信仰の霊験があり、人々は文殊菩薩に親しく見えるために、各国から巡礼しに来た。従来の研究では、「文殊化現」が「文殊化身」や「文殊瑞相」等と区別せずに、同一の意味として用いられているが、小論では両者の間に違いがあると考えられているので、文殊化現の概念を明らかにして、文殊化現の実体を解明した。 |