本研究は、我が国における古代の「地鎮」について、祭主たる執行者に着目して、その様相を解明しようとするものである。よって、『日本書紀』や『続日本紀』をはじめとした史料に記された陰陽師の地鎮・鎮祭の実施の記述に注目し、密教僧の宅鎮である安鎮法について『阿娑縛抄』の?安鎮法日記集?の記載を検討に加えることによって、陰陽師と僧侶双方の地鎮(宅鎮)の執行の状況を探った。このなかで、陰陽師の単独による地鎮・密教僧の単独や僧侶に陰陽師が従っておこなわれる安鎮法などが観察された。安鎮法に際して、天台座主をはじめとした密教僧に付き従う陰陽師の姿が認められるものの、陰陽師の祭法に僧侶が率いられるかたちは、ほとんどみられない。安鎮法で密教僧に補助的に従う陰陽師については、中・下級の官としての陰陽師と、高級僧侶としての座主など儀礼執行者の官位や格の相違に起因すると考えられる。 |