みなさんの卒業研究の一方法として、古典作品の注釈書を比較することをお勧めしたい。たとえば、「あかつき」の思いを詠った男と女の歌について、昔から今までに作られた数多くの注釈書の解釈を比べてみる。上の二首とも、後朝の別れを男女が悲しく詠った作と読まれる一方で、言い寄る男を女が冷たく拒んだ時の歌とも解釈されている。鏡王女の歌は、題詞に用いられる「娉」字が求婚する意であることから、求婚をうけた女がそれを拒絶した作であることが分かる。反対に、女に振られた歌と理解されることの多い忠岑の作は、「別れ」の語から、逢うての後の離別の悲しみを詠ったものと解釈されなければならない。注釈書を比較することは、そのような正解を求める手段であると共に、たとえば女の拒絶をやさしい女心と誤解する注釈にその時代の女性観が明らかになるなど、思わぬ発見をもたらすことがある。解釈の相違を入り口にして、古典の心と、それを享受する人々の心と、それぞれに近づく一方法である。 |