木村素もと衞もり(1895-1946)は,西洋の教育学説の紹介・移入に尽力したのではなかった。彼は,西田哲学的な立場から教育について考えた,日本のオリジナルな教育哲学者である。敗戦後には,日本の教育の再建の方向を指し示すために来日するアメリカ教育使節団に対応するための日本教育家の委員会,その委員の一人に指名され,大いに期するところがあったが,志を果たさずして,昭和21(1946)年2月,講演旅行中,信州上田で急逝した。享年満50歳11ヵ月。戦後のどさくさと大転換に紛れて,彼は忘れ去られたと言ってよく,彼のなした仕事の全容が明らかになっているとは,今なお言いがたい。しかし,彼の思想を思想としてつかむためには,まずは彼の著作すなわちテクストを確定しなければならない。本目録の作成は,そのための基礎作業である。 |